てがみ: qatacri at protonmail.com | 統計 | 2025

202509601

「エンジニアは生成 AI に対する忌避感が少ない」みたいな主張を複数みかけた。これは新しいものに抵抗がないという肯定的な文脈で書かれていることが多いが、ちょっと違う側面もある気がする。

もちろんシンプルに忌避感がない人もいるだろうが、それは他の分野でも似たような割合ではないかと思う。「他の分野と比べて」忌避感が少ない理由は、私の印象では大きく二つある。

二つ目について補足する。 Transformer によって機械翻訳のレベルは一気に上がった。長い時間と労力をかけて英語を身につけた人は多いはずだが、それでも機械翻訳に対して忌避感を表した例は少ない。なぜか。それは多くの人にとって非母語を学ぶ理由が「言語そのものに対する興味」ではなく、「実用上のツールとして必要だから」だと思う。

もし全人類が翻訳家や言語学者だったら、この反応はまったく違っただろう。忌避感を持つ人の割合が少ないのは、対象そのものに強い興味を持っている人が少ないことの裏返しかもしれないわけだ。

従来、革新的な技術はその分野に対する深い理解や新しい視点を含んでいた。生成モデルには特定分野に対する理解がアーキテクチャに組みこまれていない。これは機械学習の技術として真に素晴らしいことだが、応用先の分野にとって嬉しくはない。生成モデルは日本語文法に対する洞察を何も与えてくれない。

別の表現をするなら、「イラストレーターは絵を描くことそのものに対して愛がある」からこそいろいろな感情が交錯するし、「コードを書くことそのものに対して愛のあるプログラマが少ない」からこそ否定的な割合が少ない、という側面があるのではなかろうか。