感染者の増加について一つ勘違いしていたことがある。それは「感染者の増加の度合いがゆるやかなとき、少し感染を抑えれば減少に転じられる」と考えるのは大きな間違いだということだ。単純なモデルで考えると、免疫を持つ人数が十分に少ないとき
感染者数(t) ~ exp(((基本再生産数 - 1) / 感染性を持つ期間) t)
となる1。つまり同じカーブを描いている状況でも、感染性を持つ期間の長い感染症ほど基本再生産数 (以下 R0) が大きい。一方で人との接触を避けるなどの対策は、 R0 に係数がかかる形で効く。
どういうことか。「1 日間感染性を持ち、感染者 1 人が 2 人に感染させる感染症」と「100 日間感染性を持ち、感染者 1 人が 101 人に感染させる感染症」は同じ感染者数のカーブを描く2が、減少に転じさせるためには後者の方が 50 倍強い対策を必要とする。
もう一点、初期の感染者数データだけから R0 を推定するのは不可能であることも分かる。遅れを考慮に入れたモデルでは潜伏期間なども指数係数に影響を与える。推定において多数のパラメーターが縮退している。
そもそも SIR 系のモデルは定性的な振舞いを再現するにはシンプルで良いものの、現実のデータから R0 を必要な精度で推定するのに使えるか怪しい。感染期間に限らず一定割合で治癒するという仮定はどの程度妥当なのだろう。確率的ゆらぎは振舞いを大きく変えないのか。それらを考慮に入れたモデルはもちろんあると思うけれど、今度はパラメーターの数も増える。
専門の人は様々なデータを組み合わせて推定しているのだと思う。対策に役立てられる精度を出すのは大変そうだ。
X 日後に必ず治るというモデルではないので、「感染性を持つ期間」という用語には注意が必要。
上と同じ理由で順次離散的に計算した結果とはズレる。