てがみ: qatacri at protonmail.com | 統計 | 2021

202114300

「ウィルスに勝つ」という言い方は、ちょっと人間の価値観をウィルスに押し付けすぎである。勝ち負けの概念を持たないウィルスの文化をもっと尊重すべき。

それはともかく、「勝つ」の意味が「ある日を境に一切ウィルス対策をしなくてよい生活に戻れる」の意味だとしたら、そういう日が来ない可能性は十分にある。つまり、負ける場合についても想定しておく必要がある。負けたら人類滅亡というわけではないのだから。

「可能性がある」と書いたけれど、短期的には負けが確定しているといっていい。デルタ株の基本再生産数は R0 = 5 .. 9 と推定されている。たとえ R0 = 5 かつワクチンによる感染抑制効果が 100% であったとしても、ざっくり未接種者 20% が感染拡大のしきい値になる。他国の状況なども鑑みれば、現行のワクチンが希望者全員に行き渡っても、感染対策なしで感染拡大を止められる可能性は低い。

中期的にはどうか。真っ先に考えるのは、デルタ株に最適化されたワクチンである。実際に Pfizer は開発中らしい。ただ先ほどの計算から分かるように、デルタ株の厄介な部分はワクチンの有効性低下より感染力の高さである。また、ワクチンの有効性 95% などの値は発症率に対するもので、感染媒介抑制効果はそれより少し低いようだ。発症率や入院率抑制効果は必要な医療リソース量を定数倍下げるだけであり、指数的な感染拡大に対しては無力である。不定性が大きいので何ともいえないけれど、デルタ株に最適化されたワクチンだけで感染拡大を防げる可能性は…たぶんあまり高くない。

どんなシナリオが待っているにせよ、「今だけ我慢して乗り切れば」というメッセージの出し方はやめたほうがいいと思う。