作家がキーボードで文章を書き、作曲家が DAW で作曲し、イラストレーターがタブレットで絵を描くのに、数学者なんかが現在でも紙とペンをメインに使うのはなぜか。現状では単純にメリットが少ないからだと思う。
(一部領域の) イラスト制作がフルデジタルに移行したのは、紙と鉛筆に対して書き味が優れているから…ではたぶんない。ペン先のずれやジッター、遅延は現在でも無視できないレベルで存在する。それでも移行が進んだのは、 Undo, 拡大縮小、レイヤー、デジタルならではの絵筆や混色など、紙と鉛筆にはないメリットや新しい表現があったからである。
一方、数式の計算を液タブ上で行っても、現状では「電子データとして直接保存しておける」くらいのメリットしかない。 A3 見開きで持ち運べる紙のメリットのほうが大きい。もちろん Mathematica のようなソフト上で行うのも一つのアプローチだが、素朴に手計算を置きかえるのはなかなか辛い。何がネックになっているかと問われると明確には答えられないのだが。
では、コンピュータを使うメリットを提供する機能は何が考えられるか。たとえば手書き数式を認識して数式処理システムとやり取りし、式変形を援用する機能があれば便利かもしれない。しかしそれがキラー機能になるところは想像できないなあ。ワープロソフトで辞書を引く機能は便利だろうが、それが理由で原稿用紙から移行した作家はあまりいないだろう。
Backlinks: [202306502]
.